4063 信越化学工業

信越化学工業 4063 東証P

Shin-Etsu Chemical Co., Ltd.|半導体シリコンウエハー、フォトレジスト、塩化ビニル樹脂、か性ソーダ、シリコーン、セルロース誘導体などを展開する総合化学・半導体材料メーカー。
※2026年7月5日時点の情報

事業内容

2026年7月5日の時価総額は約138,116億円。2026年7月3日終値6,958円と、2026年3月期末の発行済株式数1,984,995,865株を基準にした概算値である。

信越化学工業は1926年9月16日設立、本社は東京都千代田区丸の内一丁目4番1号。代表者は代表取締役社長の斉藤恭彦氏、決算期は3月、上場市場は東京証券取引所プライム市場。主要製品は、電子材料事業の半導体シリコン、希土類磁石、半導体用封止材、フォトレジスト、マスクブランクス、合成石英製品、生活環境基盤材料事業の塩化ビニル樹脂、か性ソーダ、メタノール、クロロメタン、ポバール、機能材料事業のシリコーン、セルロース誘導体、金属ケイ素、合成性フェロモンなど。

2026年3月期は売上高2,573,969百万円、営業利益635,204百万円、経常利益708,281百万円、親会社株主に帰属する当期純利益474,459百万円。電子材料事業はAI関連を中心とする半導体材料需要を取り込み増収増益となった一方、生活環境基盤材料事業は塩化ビニル市況の軟化により減収減益となった。2027年3月期の連結業績予想は、決算短信で開示可能となった時点で速やかに開示するとされ、通期予想は未開示である。

電子材料事業

電子材料事業は、2022年3月期の売上高7,089億円、営業利益2,447億円から、2026年3月期には売上高10,157億円、営業利益3,445億円へ拡大した。2024年3月期に半導体市場の調整で減速した後、2025年3月期から回復し、2026年3月期はAI関連の強い需要を背景に5年間で最高の売上高と営業利益となった。
電子材料事業 セグメント業績推移(単位:億円)
11,376 8,532 5,688 2,844 0 2022 2023 2024 2025 2026 7,089 8,756 8,504 9,343 10,157 2,447 3,014 2,721 3,247 3,445 売上高営業利益
電子材料事業は、信越化学工業の利益の中心である。2026年3月期は全社売上高の約40%、営業利益の約54%を占めた。

公式事業ページでは、半導体の製造に欠かせない各種材料をはじめ、環境対応や情報通信などの最先端で課題解決に不可欠な材料を提供するとされている。取り扱い製品には、シリコンウエハー、化合物半導体、ネオジム磁石、レアアース化合物、シリコーン成型材料、半導体封止材、フォトレジスト、マスクブランクス、合成石英ガラス基板、石英るつぼなどが含まれる。

半導体シリコンウエハーは、ロジック、メモリ、アナログ、イメージセンサー、パワー半導体などの基板材料であり、300mmを中心に先端半導体の性能と歩留まりを左右する。信越化学工業は、品質、平坦度、欠陥密度、金属汚染管理、顧客認定、長期供給力で競争する。

フォトレジストとマスクブランクスは、リソグラフィ工程に関わる材料である。EUV、ArF、KrFなど露光技術の高度化に伴い、材料の分子設計、純度、欠陥管理、露光後の反応制御が重要になる。信越化学工業は、ウエハーだけでなくリソグラフィ材料も展開するため、半導体前工程の複数の重要材料を顧客へ供給できる。

2026年3月期は、AI関連が引き続き活況を呈し、それ以外の分野の需要も上向いた。こうした市場を捉え、シリコンウエハー、フォトレジスト、マスクブランクス等の半導体材料の売上を伸ばした。露光材料の新拠点である伊勢崎工場の操業開始も、今後の供給力拡充の重要材料となる。

この事業のリスクは、半導体シリコンサイクル、顧客の設備投資、在庫調整、先端ノードへの移行ペースに左右される点である。2024年3月期には半導体市場の調整が続き、売上高と営業利益が減少した。AI向け需要は強いが、汎用半導体や非AI用途の回復が遅れる局面では、製品別の濃淡が出る。

生活環境基盤材料事業

生活環境基盤材料事業は、2023年3月期に売上高13,080億円、営業利益5,413億円まで拡大した後、塩化ビニル市況の軟化を受けて2026年3月期は売上高9,813億円、営業利益1,648億円へ低下した。PVC・クロールアルカリの価格サイクルが全社利益の振れに大きく影響する。
生活環境基盤材料事業 セグメント業績推移(単位:億円)
14,650 10,987 7,325 3,662 0 2022 2023 2024 2025 2026 8,571 13,080 10,102 10,415 9,813 3,177 5,413 3,219 2,914 1,648 売上高営業利益
生活環境基盤材料事業は、塩化ビニル樹脂、か性ソーダ、メチルクロライド、メチレンクロライド、クロロホルム、メタノール、次亜塩素酸ソーダ、酢酸ビニル、ポバールなどを扱う。上下水道などの生活基盤に欠かせない素材や、生活用品、食品などに使われる材料を世界中へ供給する事業である。

中核は塩化ビニル樹脂である。PVCは、上下水道管、建材、電線被覆、フィルム、医療、産業資材など幅広い用途を持つ汎用樹脂であり、住宅・インフラ投資、建設需要、電力・通信インフラ、工業資材需要に連動する。

同社の米国子会社Shintechは、低コスト原料と大規模一貫生産を活かし、PVC・クロールアルカリ事業で重要な地位を持つ。PVCは塩素とエチレンから作られ、同時にか性ソーダの需給も収益に影響する。したがって、PVC価格、か性ソーダ価格、エチレン、電力、天然ガス、輸送費のスプレッド管理が利益を左右する。

2022年3月期から2023年3月期は、塩化ビニルとか性ソーダの需要が堅調で、製品値上げと高稼働が利益を大きく押し上げた。2023年3月期には営業利益5,413億円となり、電子材料事業を上回る利益を稼いだ。

2024年3月期以降は、中国メーカーの輸出圧力、アジア市場での価格低迷、北米市況の軟化が続き、利益水準が低下した。2026年3月期は北米で昨年半ばまで需要が堅調だったものの、その後弱含みとなり、アジアほか海外市場でも価格の低迷が続いた。

この事業は景気敏感度が高い一方、信越化学工業にとって全社分散の大きな柱である。半導体材料が調整する局面でもPVCが稼ぐ年があり、逆にPVC市況が軟化する局面では電子材料が全社を支える。複数サイクルを内包する点が、信越化学工業の収益構造の特徴である。

機能材料事業

機能材料事業は、2022年3月期の売上高3,956億円、営業利益947億円から、2026年3月期には売上高4,408億円、営業利益1,009億円となった。売上は2023年3月期をピークに横ばい圏だが、シリコーンやセルロース誘導体などの高機能製品群で安定した利益を維持している。
機能材料事業 セグメント業績推移(単位:億円)
5,525 4,144 2,762 1,381 0 2022 2023 2024 2025 2026 3,956 4,933 4,252 4,486 4,408 947 1,306 850 1,000 1,009 売上高営業利益
機能材料事業は、食品、化粧品、医薬品など身近な分野から、建築、農業、電気電子、自動車、産業用途まで、多様な分野に高機能材料を供給する事業である。

主力製品はシリコーンとセルロース誘導体である。公式事業ページでは、シリコーンオイル、変性シリコーンオイル、シリコーン離型剤、シリコーン粘着剤、シリコーンレジン、シラン、シランカップリング剤、RTVシリコーンゴム、シリコーンゴムコンパウンド、放熱シリコーンゴム加工品、導電シリコーンゴム加工品などが掲載されている。

シリコーンは、耐熱性、耐候性、電気絶縁性、撥水性、柔軟性、離型性などを持ち、電子部品、自動車、建築、医療、化粧品、消費財、産業機器に使われる。EV、データセンター、電力機器、通信機器では、熱管理、絶縁、封止、接着、保護材料としての需要が広がる。

セルロース誘導体は、建材、食品、医薬、パーソナルケアなどに使われる。医薬用セルロースや食品添加物用途は、景気変動の影響を比較的受けにくく、機能材料事業の安定性を支える。

2026年3月期は、汎用製品群で中国からの輸出増を背景とする価格競争の影響を受けた一方、シリコーンを中心に機能性の高い製品群の増販に努めた。高付加価値用途へのシフトが、この事業の利益維持に重要となる。

競合はDowなど世界的な素材化学企業である。シリコーン・シラン・電子部品用封止材料・コーティングでは、グローバル供給網、用途開発、顧客の工程認定、価格対応力が競争軸になる。信越化学工業は、シリコン化学を幅広く横断する技術と電子材料事業との接点を持つ点で強みがある。

加工・商事・技術サービス事業

加工・商事・技術サービス事業は、2022年3月期の売上高1,126億円、営業利益209億円から、2026年3月期は売上高1,359億円、営業利益273億円となった。全社に占める規模は小さいが、半導体ウエハー関連容器や樹脂加工、エンジニアリングなど、グループの周辺機能を担う。
加工・商事・技術サービス事業 セグメント業績推移(単位:億円)
1,531 1,148 766 383 0 2022 2023 2024 2025 2026 1,126 1,316 1,289 1,367 1,359 209 263 241 287 273 売上高営業利益
加工・商事・技術サービス事業は、グループ会社とともに、樹脂加工製品の製造、各種機器、工場のエンジニアリングなどを展開する事業である。

取り扱い製品には、信越ポリマーのウエハーケース、OAローラ、入力デバイス、シリコーンゴムチューブ、信越エンジニアリングのFPDパネル真空重ね合わせ装置、ウェハー真空重ね合わせ装置、X線バンプボイド検査装置、レーザデボンド装置、ナノインプリント装置、信濃電気製錬の研磨微粉、球状SiC、高純度金属シリコン粉末、信越フィルムの包装用フィルムなどが含まれる。

この事業の特徴は、信越化学工業の素材事業と周辺装置・容器・加工品をつなぐ点にある。半導体ウエハーの搬送・保管容器は、顧客の清浄度、寸法、耐薬品性、パーティクル管理に関わるため、半導体シリコンウエハー事業と補完関係を持つ。

2026年3月期は、半導体ウエハー関連容器の販売が堅調に推移した一方、食品包装用塩ビラッピングフィルムでは米国向けの販売が増えた。事業規模は全社比で小さいものの、半導体関連容器、樹脂加工、エンジニアリング、包装フィルムなど、複数の細かな収益源を持つ。

投資判断では、このセグメント単体よりも、電子材料、生活環境基盤材料、機能材料を補完する周辺事業として見る必要がある。半導体ウエハー関連容器やEV関連製品は、グループ内の半導体・機能材料との接点が強く、信越化学工業の総合力を支える。

直近5年業績サマリー

業績項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期 2027年3月期
会社予想
売上高
百万円
2,074,428 2,808,824+35.4% 2,414,937△14.0% 2,561,249+6.1% 2,573,969+0.5%
営業損益
百万円
676,322 998,202+47.6% 701,038△29.8% 742,105+5.9% 635,204△14.4%
経常損益
百万円
694,434 1,020,211+46.9% 787,228△22.8% 820,543+4.2% 708,281△13.7%
当期純利益
百万円
500,117 708,238+41.6% 520,140△26.6% 534,021+2.7% 474,459△11.2%
EPS
円・最新発行済株式数で再計算
251.95円 356.80円 262.04円 269.03円 239.02円
PER
14.92倍 11.98倍 25.13倍 15.75倍 26.19倍
PBR
2.18倍 2.11倍 2.95倍 1.74倍 2.68倍
BPS
円・最新発行済株式数で再計算
1,727.56円 2,028.32円 2,228.76円 2,437.08円 2,339.20円
純資産
百万円
3,429,208 4,026,209+17.4% 4,424,073+9.9% 4,837,585+9.3% 4,643,307△4.0%
営業CF
百万円
553,528 788,013+234,485 755,183△32,830 881,934+126,751 712,651△169,283
投資CF
百万円
△253,723 △186,488+67,235 △1,099,208△912,720 △142,553+956,655 △544,806△402,253
財務CF
百万円
△122,504 △423,559△301,055 △369,466+54,093 △454,905△85,439 △504,835△49,930
現金及び現金同等物
百万円
1,008,925 1,247,344+23.6% 590,135△52.7% 882,736+49.6% 562,089△36.3%

中期経営計画

経営方針と中長期投資

信越化学工業の公式IRサイトでは、2026年7月5日時点で専用の中期経営計画ページは確認できない。代替資料として、IR情報内の「経営方針」と決算短信の経営方針・今後の見通しを確認する形式となる。

2026年3月期決算短信では、2027年3月期の連結業績及び配当予想について、開示が可能となった時点で速やかに開示するとされている。そのため、売上高、営業利益、経常利益、当期純利益の通期会社予想は未開示である。

経営方針の中心は、顧客との意思疎通を密にし、求められる品質の製品を安定供給し、顧客にとって価値ある製品の開発を急ぎ、中長期の展望を持って投資を積極的に実施することである。2026年3月期の設備投資額は3,397億円、2027年3月期の投資額予想は3,500億円、減価償却額予想は2,400億円である。

電子材料では、量、質、品種の三方で高度成長が確実な半導体市場に必要不可欠な素材と技術の提供、露光材料の伊勢崎工場の操業開始、AIインフラ構築に必要な製品を含む先端電子材料総合メーカーとしての機能拡充が焦点となる。

生活環境基盤材料では、米国拠点で築いた供給力の活用、塩化ビニルとか性ソーダの販売網、安定供給に根差した値上げと供給方式改善が焦点となる。PVC市況は変動が大きく、北米住宅、インフラ投資、中国メーカーの輸出、原料・エネルギー価格が収益に影響する。

機能材料では、シリコーン、セルロース誘導体、ペリクル、リチウムイオン電池用シリコン系負極材などの高機能品の拡販が重要となる。汎用品の価格競争を高付加価値品で補う構造が維持できるかが、中期的な営業利益率の評価軸となる。

経営方針へ

競合他社

1 Dow Inc. DOW
時価総額は約3.22兆円。現地通貨ベースでは約199.7億米ドル。

Dow Inc.は米国を本拠とする素材科学・化学メーカーであり、Packaging & Specialty Plastics、Industrial Intermediates & Infrastructure、Performance Materials & Coatingsを主要セグメントとしている。信越化学工業との競合は、主にシリコーン、シラン、電子部品向け封止・保護材料、コーティング、機能性添加剤で発生する。

Dowは、シリコーン、シリコーン有機ハイブリッド、シラン、シリコーンゴム、光学材料、離型コーティング、フォームコントロール剤を展開する。信越化学工業の機能材料事業が扱うシリコーン、シリコーン成形材料、電子・産業用途向けシリコーン、半導体封止材、LED包装材料と用途が重なる。

2026年第1四半期のDowは、売上高97.94億米ドル、GAAP純損失4.45億米ドル、営業EBITDA8.73億米ドル。販売価格低下と一部需要減少により全社売上高が減少した一方、Performance Materials & Coatingsでは下流シリコーンやアクリルモノマーの数量増加により売上はほぼ横ばいだった。

Dowは、半導体シリコンウエハーやPVCでは信越化学工業との直接競合度は限定的だが、シリコーン、電子部品保護材料、建築・包装・産業用途の機能性材料では世界規模の競合である。
2 GlobalWafers 6488
時価総額は約3.03兆円。現地通貨ベースでは約6,000億台湾ドル。

GlobalWafersは台湾を本拠とする半導体シリコンウエハー専業メーカーである。インゴット成長、スライス、エッチング、研磨、拡散、エピタキシャル成長などを一貫して手がけ、3インチから12インチまでのシリコンウエハーを供給する。

信越化学工業との競合は、半導体シリコンウエハー、エピタキシャルウエハー、SOI、テスト・モニターウエハー、パワー半導体向けウエハーで直接発生する。ポリッシュドウエハー、エピタキシャルウエハー、SOI、アニールウエハー、300mmウエハーでは極めて直接的な競争関係にある。

2025年通期のGlobalWafersは、売上高605.98億台湾ドル、粗利益146.24億台湾ドル、営業利益86.36億台湾ドル、純利益73.12億台湾ドル、EPS15.29台湾ドル。2026年第1四半期は売上高と営業利益が前年同期比で減少した一方、純利益は保有株式の時価評価益などにより増加した。

AI、高性能計算、先端パッケージング、自動車・産業向け半導体の需要拡大に対して、信越化学工業とGlobalWafersは品質、顧客認定、供給能力、地域分散投資で競争する。
3 Westlake Corporation WLK
時価総額は約1.55兆円。現地通貨ベースでは約95.8億米ドル。

Westlake Corporationは米国を本拠とする化学・建材メーカーである。Performance & Essential MaterialsとHousing & Infrastructure Productsを主要事業とし、PVC、ポリエチレン、エポキシ、クロールアルカリ、か性ソーダ、パイプ、フィッティング、住宅・インフラ製品を展開する。

信越化学工業との直接競合は、PVC樹脂、クロールアルカリ、か性ソーダ、塩ビ管、建材用途である。信越化学工業の米国子会社ShintechはPVC事業の重要拠点であり、Westlakeは北米の主要PVC・塩ビ関連材料メーカーとして、同じ市場で競合する。

2025年通期のWestlakeは、売上高112億米ドル、調整後EBITDA11億米ドル。販売価格の低下、販売数量の減少、原料・エネルギーコスト上昇により収益が悪化した。2026年第1四半期は売上高27億米ドル、GAAP純損失1.69億米ドル、調整後EBITDA2.35億米ドルとなった。

Westlakeは、半導体材料やシリコーンでは信越化学工業と競合しないが、PVC・クロールアルカリでは最も重要な比較対象の一社である。北米住宅、インフラ投資、天然ガス価格、PVCスプレッドが両社の収益比較に直結する。

強みと将来性

半導体材料、PVC、シリコーンを併せ持つ世界級ポートフォリオ
信越化学工業の強みは、半導体材料、PVC・クロールアルカリ、シリコーン・機能材料という、異なる産業サイクルを持つ世界級事業を併せ持つ点である。単一の化学品や単一の半導体材料に依存せず、電子材料とインフラ材料と機能材料が相互に収益を補完する構造を持つ。

電子材料では、シリコンウエハー、フォトレジスト、マスクブランクス、半導体封止材、合成石英、希土類磁石など、半導体製造や電子機器に不可欠な材料群を持つ。AI、HPC、データセンター、先端ロジック、メモリ、車載、産業機器の需要拡大は、同社の電子材料事業に中長期の追い風となる。

半導体ウエハーは顧客の認定期間が長く、品質要求が非常に厳しい。顧客が一度採用した材料を簡単に切り替えることは難しく、供給安定性、品質、歩留まり貢献、長期契約が競争力となる。信越化学工業は、先端半導体メーカーに対して高品質材料を継続供給できる点が大きな参入障壁である。

生活環境基盤材料では、米国Shintechを軸としたPVC・クロールアルカリの大規模一貫生産体制が強みである。北米の原料・エネルギー供給、グローバル販売網、塩ビ樹脂とか性ソーダの需給を組み合わせた運営力により、世界市場で価格競争に対応できる。

機能材料では、シリコーン、セルロース誘導体、シラン、ペリクル、リチウムイオン電池用シリコン系負極材など、複数の高機能材料を持つ。電子材料と機能材料は、データセンター、EV、電力機器、通信機器、半導体パッケージ、熱管理、封止・保護材料などで接点があり、将来的に総合提案力を高めやすい。

2026年3月期の自己資本比率は78.7%と高く、財務基盤は強い。多額の設備投資を実行しながら、研究開発、能力増強、株主還元を同時に行える財務余力がある。2027年3月期の設備投資額予想は3,500億円であり、半導体材料、PVC、シリコーン、機能材料の将来需要に向けて投資を続ける姿勢が明確である。

弱みとリスク要因

半導体シリコンサイクル、PVC市況、中国過剰供給、為替の複合リスク
信越化学工業の最大のリスクは、複数の世界市況に同時に晒される点である。半導体シリコンウエハー、PVC、か性ソーダ、シリコーンはいずれもグローバル需給と価格サイクルの影響を受ける。収益源が分散している一方、主要市況が同時に悪化する局面では全社利益が大きく落ち込む可能性がある。

電子材料事業では、AI関連が強い一方、非AI用途の半導体、車載、産業機器、民生機器では回復の濃淡が出る。2024年3月期には半導体市場の調整が続き、電子材料事業の売上高と営業利益が減少した。300mmウエハーや先端材料は顧客認定が厳しく、高品質が求められるが、顧客の在庫調整や設備投資延期が発生すれば出荷が減少する。

生活環境基盤材料事業では、PVC市況の軟化が利益を大きく押し下げる。2023年3月期に営業利益5,413億円を稼いだ同セグメントは、2026年3月期に1,648億円まで低下した。中国メーカーの輸出圧力、アジア市場の価格低迷、北米住宅需要、金利、エネルギーコスト、物流費が収益を左右する。

機能材料事業では、中国経済の不振や輸出増に起因する在庫調整、汎用製品の市況軟化が続く可能性がある。シリコーンではDowなど世界的競合が存在し、価格、用途開発、顧客認定、供給力で競争する。高付加価値品を伸ばせない場合、汎用品の価格圧力を吸収しにくい。

財務面では強固な自己資本を持つが、2026年3月期は自己株式取得を含む財務CFが△504,835百万円、投資CFが△544,806百万円となり、現金及び現金同等物は562,089百万円まで減少した。積極投資と株主還元を続ける場合、投資回収の速度と手元流動性のバランスを確認する必要がある。

株価面では、2026年3月期末株価6,259円から2026年7月3日終値6,958円へ上昇している。最新発行済株式数で再計算した2026年3月期EPSを基準にするとPERは29倍台、BPSを基準にするとPBRは約3倍となる。電子材料の成長期待が織り込まれる一方、PVC市況の回復遅れや半導体在庫調整が再燃する場合、バリュエーション調整が起こりやすい。

出典

本ページは、企業が公表する決算短信、公式IR資料、公式事業ページ、提供された期末株価情報をもとに作成した分析情報であり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。掲載情報は作成時点の確認内容に基づくものであり、将来の業績、株価、配当、企業価値を保証するものではありません。投資判断は必ず最新の会社公表資料、取引所開示、各種リスク情報を確認したうえで行ってください。

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